実行委員長挨拶

日本毒性学会は金属の毒性と生理作用の研究を統合的に発展させることを目的として、2017年に生体金属部会を設立しました。本部会はそうした研究の情報交換と研究者交流の場としてメタルバイオサイエンス研究会を年1回開催しています。

本研究会は、1996年にメタロチオネインの機能に関する「メタロチオネイン研究会」として発足し、2007年に「メタロチオネインおよびメタルバイオサイエンス研究会」としてより広い領域の研究者の交流の場として発展し、2013年からは「メタルバイオサイエンス研究会」として金属の生理機能・毒性・疾病との関連が議論されてきました。2017年にはさらなる発展を目指して、日本毒性学会生体金属部会が主催する学術集会として開催されています。


地球上には多種・多量の金属が存在します。人類はこれら金属の存在下で生存するために、生体システムを地球環境に合わせて構築してきました。しかし人間社会の発展に伴い開発や工業化が進み、金属土壌汚染による重大な公害が世界各地で発生し、これは過去形でなく現在進行形で生じています。さらに現在の革新技術により新しい金属化合物やナノ物質が開発され、未知の生体影響が懸念されています。人々の健康を守るためには、これら金属・金属化合物が生体に及ぼす影響を正確に把握し、解析する必要があります。

一方、金属の生物活性が解明されるにつれ、その作用を活かすことで人類に大きな利益を与えることが明確になってきました。例えば生体に必須の金属があり、その欠乏や過剰は生体に悪影響を及ぼします。そのためこれらの金属を量的にコントロールすることで病気の予防や治療に結び付きます。また抗がん剤をはじめとした種々の薬剤として用いられている金属もあります。
 メタルバイオサイエンス研究会2021では、「メタルバイオサイエンス研究のスピンオフ」をテーマとして、金属研究の社会還元を通して金属研究全般の発展に寄与することを目的とします。すなわち、現在までに得られた研究結果や情報を社会に還元する方向・方策をいま一度議論し、また過去に出た研究アイデアを現在の最新技術や若い頭脳による斬新なアイデアで解析・発展させるシーズとしていま一度見直す機会と捉えて頂き、活発な議論を期待します。

メタルバイオサイエンス研究会2021
実行委員長  三浦 伸彦
(横浜薬科大学)